
ウォレスとチャンスが紡ぎ直す、神話と裏切りの戦場
ボードゲームデザイナーの巨匠マーティン・ウォレスと、『Heroes Wanted』などで知られるトラヴィス・R・チャンスのタッグにより、ひとつの作品が再誕しました。
その名は──『クトゥルフ:ダーク・プロヴィデンス』。
このゲームは完全新作でありながら、実は知る人ぞ知る作品『A Study in Emerald(エメラルドの秀作)』をルーツとしています。
原作はニール・ゲイマンの短編小説
本作の原点は、ニール・ゲイマンの短編『A Study in Emerald』。
シャーロック・ホームズの世界観とH.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話を融合させた異色のストーリーです。
物語の舞台は19世紀末。古のものがすでに世界を支配しており、人類はその統治に甘んじています。
しかし、一部の人間たちは密かに反旗を翻し、秘密戦争が勃発。
この奇怪な設定が、ボードゲームへと昇華されました。
『エメラルドの秀作』とその2つの姿
『A Study in Emerald』には、2013年の初版と、2015年の第2版の2つが存在します。
第2版は、国内では『ホームズ vs クトゥルフ 翠色の習作』(アークライトゲームズ様出版)として日本語化もされました。
一方、初版は複雑でカオスな中にこそ魅力を見出すプレイヤーに高く評価され、以下のような受賞歴を誇ります:
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🏅 2013 Meeples’ Choice Award ノミネート
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🏅 2013 Golden Geek 最優秀テーマゲーム賞ノミネート
『ダーク・プロヴィデンス』は初版の精神を現代へと継承
『ダーク・プロヴィデンス』は、第2版の延長ではなく、初版の精神をリメイクすることを目的に設計された作品です。
共同デザイナーであるトラヴィス・R・チャンス自身が、BoardGameGeekフォーラムでこう語っています:
「今回のデザインでは、クレイジーなカード群や1版の精神に思い切り寄せました。ゾンビや吸血鬼、クトゥルフといったワイルドなカードはすべて登場します(ゾンビと吸血鬼はリテーマされています)。
それだけでなく、神話カードの枚数は2倍になり、さらにユニークで強烈なカード効果も多数追加されました。支援カードにもより多様性を持たせ、エージェントの個性と能力を強化し、都市カードもパワーアップさせています。」
――Travis R. Chance
つまり本作は、初版のワイルドな魅力を拡張し、より遊びやすく洗練されたかたちで現代に蘇らせた作品なのです。
今度はホームズではなくDMDの世界
『エメラルドの秀作』ではホームズとクトゥルフの対決でしたが、今回の『ダーク・プロヴィデンス』はCMONの人気ゲーム『クトゥルフ~死もまた死すべし~(DMD)』の世界観をベースにしています。世界恐慌に揺れるアメリカを舞台に、「カール・ユング」「ニコラ・テスラ」「ハリー・フーディーニ」をはじめとする実在の人物たちも力をふるいます。
ウォレス×チャンスの融合──構造と混沌のデザイン
マーティン・ウォレスは『ブラス』や『蒸気の時代』に代表されるように、リソースの奪い合いや盤面でのインタラクションを得意とするデザイナーです。
トラヴィス・R・チャンスは、強いテーマ性とユニークなカード効果によって、プレイヤーの記憶に残る体験を演出します。
本作では、以下のような要素が見事に融合しています:
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都市の支配を巡るエリアマジョリティ
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非公開の所属による正体隠匿と読み合い
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時に同じ陣営でも足を引っ張り合う、得点構造とペナルティ
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大胆なカード効果が織りなすサプライズと反撃
「都市のつながり」が復活
初版には、都市間に線で結ばれたネットワーク的な地理配置があり、それがゲーム内での移動や作戦に大きく関わっていました。
しかし第2版ではこの要素は削除され、都市は並列配置に。
『ダーク・プロヴィデンス』ではこの地理的つながりが再び導入され、空間的な戦略性が蘇っています。
新陣営「裏切り者」の存在
さらに今作では、「探索者」でも「カルト信者」でもない、第3の陣営「裏切り者」が登場。
ゲーム中は既存のいずれかの陣営に所属しているように振る舞いながら、独自の勝利条件を秘めて動くプレイヤーです。
この新陣営の存在が、疑心暗鬼のスパイスとなり、より深い戦略と緊張感を生み出します。

『クトゥルフ:ダーク・プロヴィデンス』は、ボードゲーム史に残るカルト作『エメラルドの秀作』の初版をリスペクトしつつ、現代的に生まれ変わらせた一作です。
次回は、実際のゲーム進行に触れながら、その仕組みや面白さをより具体的に掘り下げていきます。

クトゥルフ:ダーク・プロヴィデンス
【1~5人 / 60分 / 14歳以上】
『ブラス』『蒸気の時代』で知られる名匠マーティン・ウォレスの傑作『翠色の習作』が、CMONの人気作『クトゥルフ~死もまた死すべし~』の世界観で再構築。
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2025年7月23日(水)17:00~ 2025年8月25日(月)17:00